カルビーフードコミュニケーション
加工用じゃがいもの正体に迫る!
image

河尻 修氏

帯広市川西農業協同組合    理事

JA帯広かわにし農協理事として組合員をまとめ、カルビーとの協同栽培を推進している。ご自身も長年カルビー契約農家として加工用じゃがいもの生産を行っている。

じゃがいもは、生食用、加工用、デンプン原料用の大きく3つに分けられますが、そのうちポテトチップスに使われるじゃがいもは“加工用じゃがいも”と呼ばれるもので、一般家庭で普段調理されている生食用じゃがいもは、実はポテトチップスには不向きなじゃがいもだそう。

なぜ、ポテトチップスに使われるじゃがいもは、生食用ではなく加工用じゃがいもなのか?加工用じゃがいもと生食用じゃがいもは何が違うのか?いったい、どこで、どのようにして栽培されているのか?

これらの謎に迫るべく、長年カルビーの契約農家として、加工じゃがいもを生産されている河尻さんにお話をうかがいました。

--

今回はじゃがいもの正体に迫るというテーマで、じゃがいも生産農家を代表して、北海道帯広市のJA帯広かわにしで理事をされている河尻さんからお話を伺いたいと思います。

早速ですが、じゃがいもは生食用、加工用、でんぷん用と種類がわかれているようですね。私も含め、一般消費者にはそれぞれの違いがよくわからないのですが・・・・。

河尻

じゃがいもは、生食(生鮮食料)用、加工用、でんぷん原料用と、用途に応じてそれぞれ明確に分類されており、それぞれ異なった品種と栽培方法が取られています。カルビーのポテトチップスの原料には、生食用ではなく、加工用じゃがいもが使われています。

--

なぜポテトチップスには生食用のじゃがいもでなく、加工用のじゃがいもを使うのですか?

河尻

じゃがいもをポテトチップス等のスナック類に加工するためには、ある程度のでんぷん量が必要なのですが、現在日本の市場で出回っているじゃがいもは、糖度 が高く、でんぷん量が低いためお菓子には不向きなものが多いのです。一方加工用のじゃがいもは、でんぷん量が多く、かつ糖度の低いポテトチップスに適した 品種を加工用として一から生産しているわけです。誤解されやすいのですが、加工用じゃがいもは生食用じゃがいもとははじめから区別されて栽培されており、 生食用で規格外とされたじゃがいもが加工用にまわされる、というわけではないのですよ。

--

なるほど、そもそも生食用と加工用では、品種が違うわけですね。用途が違うから、品種も違って当たり前なのですね。では、生食用としては、具体的にどんな品種があるのですか?

河尻

メークインや男爵などが有名ですね。メークインは形状も長く、でんぷん質も少ない品種です。男爵も生食専用に作られた品種で、どちらもポテトチップスなどの加工には不向きなじゃがいもです。

--

河尻さんの畑で生産しているじゃがいもの品種は?

河尻

私のところではトヨシロを生産しています。トヨシロという品種は、いまから三十数年前に開発された品種で、ポテトチップスの原料としても適していますし、それ以外にもマッシュポテトやコロッケの加工用としても使われるなど、幅広い用途があることが特長の品種です。内地(北海道以外)のほうでは生食用としても食されていますし、使い勝手が非常によいじゃがいもです。

--

他の品種は作っていないのですか?

河尻

私の畑ではトヨシロ一本ですが、JA帯広かわにし全体では、トヨシロ以外にもキタヒメ、ワセシロ、スノーデン、ノーキングラセットといった加工用品種を作っています。生産量としてはトヨシロが最も多く、その次にキタヒメ、ワセシロ、スノーデン、ノーキングラセットと続きます。
これらは、それぞれ収穫時期が異なるため、ワセシロ→ノーキングラセット→トヨシロ→キタヒメ→スノーデンという順番で収穫し、時期や用途に応じて使いわけしています。

--

そうはいっても生食用に比べて加工用のじゃがいもは品質が劣るのではないの??という勘繰りをしたくなってしまうのですが、実際のところ、加工用の品質は生食用と比べて、どうなのでしょうか?それぞれ品種の違いは分かったのですが・・・

河尻

世間一般でいわれるような、生食用の余剰分や規格外のものを加工用にまわしているなんてことは全くなく、加工用に適した品種を専門に生産し、カルビーの定める高い品質基準に達するじゃがいもを提供するために、世界的に見ても非常にレベルの高い生産システムをもっています。
実際、加工用のじゃがいもの収穫には、ものすごく気を遣います。生食用よりも1ランクも2ランクも上の技術をもって収穫しないと、カルビーに納得してもらえる基準のじゃがいもになりませんからね。技術的な面からいえば、生食用の生産者よりも(加工用じゃがいもの生産者の腕は)1枚も2枚も上をいくと自負していますよ。

--

具体的に、加工用のじゃがいもの生産で難しいのはどんな部分ですか?

河尻

加工用のでんぷん質の高い品種は、でんぷん質の低いメークインなど生食用の品種と比べて、掘り起こす際に、ちょっとした衝撃でも傷や打撲が生じやすく、扱いが難しい。なぜかというと、水分量が高いじゃがいもでは、水がクッションになって衝撃を吸収してくれるのですが、でんぷん質が高いじゃがいもでは水分量が低いため、クッションが働かず、掘り起こす際に傷や打撲が生じやすい。ですから、私ら、加工用のじゃがいもを掘るときが一番緊張します。

--

おいしいポテトチップスを作るには、原料のじゃがいもの品種からこだわって生産されているのですね。

河尻

はい、カルビー独自の非常に厳しい品質基準~比重、サイズ、キズ、打撲等をクリアしたじゃがいもだけが、ポテトチップスになれるのです。

--

まるでじゃがいも界のエリートですね(笑) これまで、さまざまなご苦労があったかと思いますが、品質向上のために取り組まれてきたことはありますか?

河尻

自分たちの育てたじゃがいもが、出荷後にどういうかたちで流通して、工場に運ばれてからどう使われているのか全く知らなかった頃は、カルビーの要求することが正直つかめなくて苦労しました。
それで15年位前ですかね、生産者も出荷先で自分の作ったじゃがいもがどう使われているのか知らなきゃいかんと、工場への視察見学を初めて行ったのですが、これが大きかった。実際に、工場で選別・洗浄を終えてラインを流れてきたじゃがいもを、パートさんたちがひとつひとつ手作業でトリミングしている様子を目の当たりにしていたら、これまで漠然と作ってきたものが、実はこういった形で使われていて、加工の現場ではこんな苦労があって・・・。そのとき初めて、自分たちに求められていたことが明確に分かったのです。生産者が良いじゃがいもを作らないと、余計な人件費がかかり、製造ラインでのロスも大きいことを実感したことで、これは是が非でも自分たちがいいものを作らなきゃいけないな、と奮い立ちました。

--

河尻さんはじめ、JA帯広かわにしのじゃがいも農家の方々にとって、大きな意識改革に繋がったのですね。

河尻

その後、今度は工場からも産地へ視察に来ていただく機会があって、今度は工場のみなさんに農家と一緒に、まだ薄暗い早朝からトラクターに乗って収穫~選別作業をしてもらいました。原料生産の現場を生産者の視点で体感することで「これだけ苦労して育てて収穫しているじゃがいもを大事に扱おう。」という強い想いが、工場のみなさん一人一人に芽生えた、という話を聞いて嬉しかったのを覚えています。 工場と産地を行き来することで、お互いの仕事への理解や尊重がいっそう深まり、我々も技術的にステップアップできましたし、工場も農家も同じく、「じゃがいもを大事にしよう!」という意識面での協調、進歩もあったわけです。

--

原料を生産する側も、それを使って加工する側も、お互いのやっていることが見えてはじめて良い関係が築けた、ということですね。そうしたやりとりは、今も続けていらっしゃる?

河尻

ええ。ずっと継続して良い関係を築けていると思っています。中には三度も四度も視察に参加している農家もいますが、みなさん行くたびに新しい発見があるって言っていますよ。

--

ところで、カルビーは契約農家という産地と工場をひもづけするような制度をとっているそうですが、JA帯広かわにしがカルビーと協同して生産していくことになったいきさつは?

河尻

当時JA帯広かわにしは協働契約栽培という形には至っていなかったものの、既にカルビーとは取引がありました。さらに、岐阜の各務原工場が貯蔵庫を持っていた関係で、各務原工場と川西農協が協働契約栽培をはじめました。ちょうど産地と工場をひもづけてやりましょう、という流れができ始めた頃です。

--

川西農協の中でもカルビーと契約していない農家もいますよね。
河尻さんがカルビーの契約農家になることを決断した理由は?

河尻

当時、私は生食用のじゃがいもを作っていたのですが、生食用は年によって相場の関係で大きく変動するため収入が不安定でした。一方で、カルビーの加工用じゃがいもはキログラムあたりの単価が決まっているため、収入に安定を求めたかったのが一番の理由ですね。そのときは品質基準が厳しいということを聞いていましたので、やるからにはしっかりやらなきゃいけない、という緊張の中でスタートしたことを今でもよく覚えています。

--

カルビーの契約農家になって良かった、と思うことはどんなことですか?これがメリットだ、ということは?

河尻

やはり一番のメリットは収入が安定したことですね。農家にとって収入が読めるのは大きいですからね。

--

では、逆に、契約農家になって後悔した、面倒になった等、デメリット面はありますか?

河尻

個人的には、デメリットと感じることはこれといって特になかったですね。ただ、自分自身が未熟だったこともあって、契約農家になった最初の何年かは苦労しました。それで申し訳ないほど質の悪いものを出荷してしまったこともあって、レベルに達していない自分の至らなさをすごく反省しました。そのうえで、カルビーと今後お付き合いしていくためには、どうにか自分のレベルを上げなきゃいけないぞ、と改めて思って必死に努力しました。
そのレベルの低かった時代、思うように収入を得られなかったことがデメリットといえば、そうかもしれません。
ただ、あの頃はアップアップで苦しかったんですが・・・、当時と比べてカルビーの品質基準が甘くなったかというと実はそんなことはなくて、要は自分自身が成長して、しっかり実力をつけたことでカルビーの納得のいく基準のじゃがいもが提供できるようになった、それだけです。

--

カルビーの基準に達していないと、契約農家であっても、じゃがいもを買い取ってもらえないのですか?

河尻

そんなことはないですが、品質が劣ればもちろんレートは下がります。また、その逆に基準を上回るものについてはさらにインセンティブが出るので、その分の収入がプラス&マイナスありますが・・・。
過去を振り返って、あのとき試行錯誤しながらもがいていた自分がいたからこそ、現在の自分があるのだと思います。あのままカルビーと契約せず、そのまま生食用の農家のままでいたとしたら、僕のじゃがいも栽培技術はここまで上がっていなかったはず。それは間違いないです。

--

デメリットが、河尻さんの努力で、メリットに転じたのですね。

河尻

技術的な面と、収穫する作業機の不具合があって、うまくいかなった過去があったので、まずは、じゃがいもに傷をつけずに掘り起こすためにグリメという海外製の作業機を導入しました。技術的な面と、高性能な機械の導入による能率アップがあわさった時に、はじめて安定して良いじゃがいもが提供できるようになって、収入が確保されたわけです。(先行投資が)できない生産者はなかなか大変でしょうが、僕の場合はある程度の借金をしてでも良い機械を導入すれば、より安定した収入が得られるという見通しがあったので思い切って勝負に出ましたね。

--

それにしても、先行投資としては、かなりの金額ですよね。不安はなかったですか?

河尻

必要な投資ではありましたが、カルビーの契約農家という安定した基盤があったからこそ、高額な機械の導入に踏み切れた面は大きいと思います。僕はもうかれこれ二十年近くカルビーとお付き合いしていますが、良いじゃがいもが獲れたのに買い取れないと言われた年はこれまで一度もないですね。カルビーでは収穫したじゃがいもについてはしっかり全量買い取ってくれます。レートも決まっていて、さらに基準を上回るものにはインセンティブも与えられる等、契約農家ならではの安心感が気持ちを後押ししてくれました。確かにちょっと高価なものではあったけれど、これで能率も上がって、収入も安定する。家族とも相談して、「よし、これでいこう!」ということに。

--

少々うがった見方をしてしまうと、安定した収入ということでは、でんぷん原料用じゃがいもを作ったほうがラクなのでは?と思ってしまうのですが・・・・。にも関わらず、加工用じゃがいもの栽培を選んだのはなぜですか?

河尻

確かにでんぷん原料用じゃがいもは傷や打撲は関係ないので、多少荒っぽい収穫でも問題ない分、ラクではありますが、そこはやはりもう1歩上を目指してやっていきたいという経営者としてのプライドがあったので、踏み切りましたね。
また、でんぷん原料用じゃがいもは政府管掌作物ということで優遇はされますが、行政の采配で右に行け、左に行けで左右されやすく不安定な上に、他と比べてもレートは低い。
また生食用は栽培についてはほとんど加工用と同じなのですが、市場の相場変動が激しく、リスクが大きい。あまりにも豊作過ぎて農薬やら人件費やら入れるとまるで見合わない、売れば売るほど赤字になるといった具合に価格が下落した年もあって、僕はたまたまカルビーの加工用じゃがいもを併作していたので、痛手は少なかったけれど・・・そうでない農家は大変でしたね。そういう意味で、加工用じゃがいもは一番安定した作物だと思います。

--

十勝全体では、作付面積では加工用じゃがいもの割合が一番多いのですか?

河尻

十勝全体だとちょっとわかりませんが、JA帯広かわにしの出荷量約6万トンの内訳は、約4万トンがカルビー向け加工用で、約1万6千トンがでんぷん原料用、残りの4千トンが生食用ですので、カルビー向け加工じゃがいもは、じゃがいも事業の中では3分の2を占めています。JA帯広かわにしは、今やカルビー抜きでは考えられないという状況です。

--

JA帯広かわにしでは、組合全体の方針として、カルビーとのじゃがいも協働契約栽培に注力していらっしゃいますが、そうすることに、反対意見は出なかったのですか?

河尻

特に組合員からの反対意見はなかったですね。実は、さかのぼること三十数年前、JA帯広かわにしでは、カルビーと他にもう一社の二社と取引をしていたのですが、それを当時のうちの役員連が相談して、カルビーに全量出荷することを決断したわけです。二社択一でしたから大きな賭けではありましたが、結局はカルビーという会社の理念や創業者のお人柄を信用して、正しい判断をさせていただいたわけです。これまで貯蔵庫の建設等、JA帯広かわにしがカルビーの加工用じゃがいもに投資した総額は七十億円。それだけ、JA帯広かわにしとカルビーで、しっかりとタッグを組んで協働栽培をしてきた三十年間でしたね。

--

カルビーグループには協働契約栽培を先導している「フィールドマン」と呼ばれる社員がいますが、彼らは具体的に契約農家に対してどういう働きかけを行っているのですか?

河尻

その年の天候を見ながら、植え付けのタイミングなんかもアドバイスしてくれるし、肥料を入れるタイミングなんかも、こちらからフィールドマンに相談しながら進めることも。僕らは自分の畑のことしかわからないけれど、フィールドマンはあちこちの畑を回っているから、他所の畑の状況などもよく把握していて、例えばどこかの畑で病害虫の被害などが生じたりすると、即座に警告をくれます。農家は一国一城の主ですから、横のつながりがあまりないのが実情。しかし、第3者としてフィールドマンがいることで、周りの概況も理解できるし、彼らのくれる情報をうまく活用しながら、より良いじゃがいもを栽培することができています。僕の場合、たいへん役に立っていますよ。

--

今でこそフィールドマンのスキルは高くなりましたけれど、はじめのうちはそれこそ大学出たばかりの農業経験のない人間から、河尻さんのように農家歴20年なんて超ベテランが、「そろそろ肥料入れて」なんて指示されて、正直カチンときませんでしたか?

河尻

はじめのうちは、組合員の中には、フィールドマンが回ってくることをよく思わない人も実際いましたね。しょっちゅうフィールドマンが来るのは、もしかして自分の畑に何か問題があるのか?要注意人物になっているのでは?なんて言ってくる農家もいたのは事実。中には、畑の真ん中で大ゲンカしたなんてことも・・・。
しょせんは人:人なので、スキル以前にコミュニケーションがはかれるか否かだと思いますよ。かつてフィールドマンのことをカルビーの偵察部隊と言って構えていた人たちが、今では「もっと来い」って、呼びつけているくらいですよ(笑)

--

人と人との付き合いの中で、フィールドマンがうまく定着していったわけですね。彼らは今ではなくてはならない存在になっていますか?

河尻

それは間違いないですね。僕は、点と点でつながっている農家を線で結んでいくのがフィールドマンの役割のひとつだと考えています。フィールドマンのおかげで、今まで連携が希薄だった農家同士が疫病や害虫、栽培技術などの情報を共有できるようになったわけですから。

--

生産者の河尻さんから見て、カルビーの「三連番地」というシステムは、生産者にメリットがあるシステムだと思いますか?

河尻

じゃがいもを出荷した者の責任として、三連番地というシステムは、僕は今の時代のニーズにあったやり方だと思っています。三連番地が導入される前は、生産者は貯蔵庫におさめるまでが責任範囲で、その後どこでどう使われて、どこで売られようが一切関与しなかったのが、三連番地を導入することで貯蔵庫の番地から、工場の生産時間や生産ライン、売っているエリアまで原料生産者が知ることが可能になったんです。そのおかげで、最終消費者まで、原料生産者が責任の一端を担っているという自覚が出てきたと考えています。安心・安全の責任もですし、最終製品で万が一何か事故が起きたら自分のところにくるぞ、という危機感も出るじゃないですか。 これまで意識しなかった、自分の作った野菜が消費者の口まで入っていくという流れが、すごく身近に感じられるようになりました。これまで農家にとってのお客様はカルビーという企業だったのが、三連番地のシステムによって、スーパーでカルビーの商品を購入してくれる人こそがお客様なんだと、生産者の意識が明確に強くなったと思います。

--

それは大きな意識改革ですよね。

河尻

ちょっと前まで「農工」一体という考えが主流でした。農とは農家、工とは工業のカルビーです。それが最近では「農工」ではなく、「農工商」の三位一体でなければならないと言うのです。商とは流通と最終消費者を指します。農工までは視察などで互いの現場を分かっていますけれど、商までいくと私たちもなかなか見えない部分だし、あちらさんも分からない。でも、この「農工商」の一体感は今の時代にすごく大切だと感じています。あちらさんのことも分かっていないといけないし、こちらのことも分かってもらう必要がある。きちんとした認識を持ったうえで、3つの流れを考えていかないといけないなあ、と思っています。

--

ちょっと前まで、農業は「KKD(勘と経験と度胸)」ともいわれていましたよね? でも、今の農業ってKKDだけではなりゆかないところもあるんじゃないですか?

河尻

そうですね。安定した量と品質のじゃがいもを供給するために、一年通じて畑は緻密にコントロールをされています。種植えから始まり、収穫までの一連の作業がカレンダー通りに進められています。お天道様まかせではすまされませんから。

--

じゃがいもは4輪作物だということですが、畑のスケジュール管理などはどのようにされているのですか?おそらく一般の消費者はピンとこないと思うので、年間の流れをざっと教えていただけますか?

河尻

じゃがいもは4輪作物なので、小麦、ビート、豆の3品目を組みあわせた細かいスケジュールを組んでいます。
まずは3月のはじめくらいからビート(てんさいの原料)作りがスタート。ハウスの中で種子を植えて苗を作ります。4月のはじめに、今度は種子の馬鈴薯を低温庫から出して種子消毒をして浴光育芽をスタートして発芽を促します。雪が解けて畑に入れるようになると先ずは畑の整地。それが4月末位なのですが、畑にじゃがいもの植え付けをしていきます。
次は3月からハウスで栽培していたビートの移植です。その後、じゃがいもの培土(土を盛る作業)をしたら、後は注意深く害虫や疫病から苗を守ってやります。
7月末~8月初旬にかけては小麦の収穫作業があります。お盆休み明けにはじゃがいもの早堀がスタートして、9月の半ばからは本格的な加工用じゃがいもの収穫作業。それが終わると、翌年の小麦の種まきと、春に植えたビートの収穫があります。
10月に入ったあたりから、翌年のじゃがいもの種子を貯蔵する準備を始めます。
北海道のじゃがいも農家のスケジュールはざっとそんな感じですかね。

--

じゃがいも農家って、想像以上に忙しいんですね。次から次へと植え付けやら収穫やらあって、一年中休みなしですか?

河尻

そんなこともないですよ。雪が積もる12月~2月は農閑期でお休み。

--

いわゆる内地の農家のイメージとはかけ離れていますよね。

河尻

僕は二十歳から農業を始めて、父親から代を譲ってもらったのが三十歳中盤。そこから自分の名義で栽培・出荷できるんです。還暦を迎える頃にせがれに代を譲るとなると、自分の名前のじゃがいもが作れるのは、人生でたった二十五回くらいなんですよ。

--

二十五回しかトライできないとなると、エラーしたら大変ですよね。下手したらその年、収入がないですもんね。

河尻

僕らの世代は、親父から代を譲られるまでの間に、どれだけ親父から技を盗めるかでしたけど、イマドキの農家のせがれは、みんな農業エリートたちですね。若いころから農業の英才教育を受け、海外研修なんかもして、二十歳過ぎた頃にはもう一人前の仕事ができる。機械も昔と比べると進化していますし、彼らはラッキーですよ。代わりにハングリー精神は昔より少なくなったかもしれませんが・・・。
僕はいつも「農業は人作り」ってよく言っているんですが、作物って人格が出るんですよね。事実、フィールドマンと一体感を持って育てたじゃがいもは、本当に良いじゃがいもになるんですよ。

--

ところで、近年、食品の安全性について消費者はとてもデリケートになっていますが、農家の方から見て、日本の農産物の安全性や品質はどうですか?

河尻

僕は無肥料、無農薬栽培を否定はしないけれど、自然堆肥だけでやるのはあまり現実的ではないと思いますよ。消費者は無肥料、無農薬が安全と思って、多少高くてもそちらを買ってしまうかもしれないけれど、価格が2倍になったらどうですか?

--

2倍でも買う人はいると思いますけど・・・高い野菜を全国民が買えるわけではありませんからね・・・。

河尻

もっとも、全ての農家が無肥料、無農薬でやったらそもそも希少価値がなくなってしまうのですよ。世界の食を守っていくという意味では、無肥料、無農薬が必ずしも善ではないと僕自身は思っています。うちの畑では肥料も農薬も使っていますけれど、出荷しているものと同じものを我が家でも食べていますよ。

--

私にも経験がありますけど、家庭菜園でも無肥料、無農薬で栽培するのは難しいですよね。高い堆肥を買って必死に栽培しても収穫量はわずか。結局はスーパーで買ってきた方が安いなんてことに・・・。それを作付面積の大きい畑でやるのはちょっと無理がありますね。

河尻

「ホビーではなく、ビジネスとして農業をやろうとするなら、無肥料、無農薬という考え方は現実的でない」と、海外のある有名な学者が言っていますが、特に日本のように高温多湿で病害虫が発生しやすい環境で、無肥料・無農薬に統一したら、おそらく何千という農家が廃業し、何百万人という国民が飢えるでしょうね。
世界には農業のできない地域もあって、そういう国の人々も生きていかなければいけないわけです。今後、我々農家はそうした人々の食糧も担っていかないといけないんですよ。

そこまで視野を広げて農業を論じられる農家が多くなればいいと思っています。世界に目を向けない限り、日本の農業に将来はありませんよ。インフラの整備が出来れば、もっと日本の農業、特に北海道の農業の将来性は明るくなるのです。 僕は、日本の農産物の中で、唯一、加工用じゃがいもだけが、世界で価格競争力、品質競争力のチャンスがまだあると思っていますから。

--

では今後、世界で競争するための加工用じゃがいもの課題は何だと思われますか?

河尻

今後の課題は何点かありますが―――まず、じゃがいもの輸送体制の確立は早急に必要でしょうね。僕のところは今自家用トラック3台を使って収穫したじゃがいもを貯蔵庫まで輸送しているのですが、運送費を払ってでも外部に委託したいと思っています。今後、搬送を委託業者がやってくれる流れができれば、もっと農家は収穫に専念できます。
次に取り組むべきは、やはり品種改良でしょう。日本は、コメ以外の品種改良はまだまだ手薄。畑作については後進国といってもいいでしょう。じゃがいも産業はこれから品種改良をしっかりやっていかないといけないと思います。日本のじゃがいも品種改良は他国と比べてスタートが30年遅れてしまいました。海外のじゃがいも先進国では民間のメーカーから様々な品種が発売されていて、農家がカタログから自由に選べるようになっているそうですよ。さらに毎年新しい品種が次々に出てきて、用途別に130種類以上のじゃがいもが選べる。向こうの農家は好きな種を買って、好きなじゃがいも植えられる選択肢があるわけです。それに比べて日本では30年前のトヨシロを今もずっと使っている・・・。日本では原則的には農林水産省所管の種苗管理センターにしか品種改良を認めていないから、競争力が全然ないのが問題です。行政でも品種改良やりながら、一方で民間のメーカーも品種改良に取り組めるような自由な土壌を築かない限り、日本はずっと遅れたままですよ。30年前の品種が未だに主流のままなんて日本だけですから。これに勝る品種はもう作れない、というのであれば仕方ないですけれどね。民間が参入することが可能になれば、すごいスピードで品種改良が進むはずです。
あとは、新たにじゃがいも栽培を始めたいという農家のために、大きな設備投資がなくても始められるよう、支援できるような仕組みを整えていきたいとも考えています。
こういった課題に取り組むことで、今後、加工用じゃがいも産業を、海外マーケットを視野に捉えたレベルの事業としてもっともっと拡大していければと考えています。

--

河尻さんのお話を聞き、加工用じゃがいもに対するイメージががらりとかわりました。また、じゃがいも産業の展望について、とても勢いのあるお話をお聞きすることができました。今後の加工用じゃがいも及びじゃがいも農家のさらなる躍進を期待しています!ありがとうございました。

編集後記

じゃがいもが生食用、加工用、でんぷん用と分類されていて、それぞれに専用品種があるとは知りませんでした。じゃがいもと言えば、普段私たちが口にしているメークインや男爵しか思い付きませんでしたが、用途別に原料が細分化されているということは良くよく考えれば当たり前のことですよネ。そして、自然を相手にする農業だけに生産農家の方々の苦労は計り知れないものがある上に、お客様の要求品質に応えなければならない栽培、収穫技術などには正直驚かされました。貴重なレポート、有難うございました。

一覧に戻る

出張授業スナックスクールお申し込み おやつとの付き合い方講演会
学習サポート faq
PAGE TOP ↑