カルビーフードコミュニケーション
365日おいしいポテトチップスのため、「年1回収穫の壁」を技術で越えろ。
image

佐々木 美峰城(みほき)氏

カルビー株式会社
府県ブロック リーダー    貯蔵サポートグループ リーダー

1982年に入社後、フィールドマンとして北海道の契約農家とともにじゃがいもの栽培、品質管理に取り組む。北海道事業部上川センター所長を経て、2001年から北海道エリア、2007年からは北海道以外の府県ブロックにおいて貯蔵チームリーダーとなり、長期貯蔵を統括。

長期貯蔵はなぜ必要なのか

--

まず、長期貯蔵の目的や期間など、概要をお聞かせください。

佐々木

ポテトチップスに使用するじゃがいもの収穫は、5月に九州で始まり、メインの産地である北海道では9〜10月まで行われますが、その後10月中ごろから翌年の5月までは収穫のない期間が続きます。しかし当然ながら、その間も製品の安定した生産のために、工場へのじゃがいもの供給は絶やすわけにはいきません。そこで、最長で半年近い間、収穫したじゃがいもを貯蔵しておく必要があるのです。

--

収穫のない時期を、輸入品や生食用のじゃがいもでカバーするわけにはいかないのでしょうか?

佐々木

加工済みのじゃがいもは別ですが、ポテトチップスの原料になる生のじゃがいもを輸入することは、そもそも国により規制されています。ですので、外国産のじゃがいもでポテトチップスを作ることは原則ありません。あまり知られていないことですが…。また、男爵やメークインといった普段食卓に上がる生食用のじゃがいもは糖分が高く、ポテトチップスにすると焦げてしまい色上がりが悪くなるので、それも原料としては不適当です。「国産」の「ポテトチップス用品種」だけで通年の安定供給を実現するには、どうしても長期貯蔵は避けられません。

--

「色上がり」がとても重要なのですね。ポテトチップス用の品種はどのような特徴がありますか?

佐々木

何と言っても糖度が低いことが求められます。また、じゃがいもの表面に傷や打撲があると腐食や焦げの原因になるので、傷つきにくさも重要。品種としてはトヨシロ、近年ではスノーデンという品種が国内ではポテトチップス用として主流です。こうした内部品質、外部品質ともに十分なじゃがいもを、協働契約を結んだ農家さんと二人三脚で栽培しています。ポテトチップスの品質を保つために、原料は決められたサイズ、比重(澱粉の詰まり具合)、糖度の規格に適合することが求められますので、その品質規格は生食用のじゃがいもよりハイレベルなんですよ。

貯蔵の前に立ちはだかる壁

--

じゃがいもの長期貯蔵で注意しなくてはならないポイントについてお聞かせください。

佐々木

まずは色上がりの良さを決める糖分の管理。そして発芽の抑制。さらに、貯蔵庫内部を結露をさせないなど湿度の調整がポイントになります。特に、カラーはポテトチップスの「命」になりますので、糖分が低い状態にじゃがいもをキープし、タイミング良く供給し続ける技術が大変重要です。

--

発芽も大きな問題になりそうですね。

佐々木

芽が出てしまうと工場で芽取りをしなくてはならず、これが大きな手間になります。しかも、この芽取りは人の手で行いますので、コスト面でも多大なロス。海外では貯蔵時に発芽抑制の薬品を使用することもありますが、国内では使用が禁止されています。ですので、貯蔵庫内の温度を低くして発芽を抑えることになりますが、あまり温度を下げ過ぎるとじゃがいもが自己防衛本能で内部に糖分を蓄えてしまいますので、ギリギリの線で温度を維持し続けることが求められます。

--

湿度の調整は、具体的にはどのようなポイントになりますか?

佐々木

これは特に貯蔵の初期段階で気を使うポイントです。じゃがいもは土から掘り起こされても生きていますから、人と同じで呼吸をしていて、しかも土の中から貯蔵庫へと環境が変わると呼吸が活発になってたくさんの二酸化炭素を出します。これが貯蔵庫内にこもってしまうと結露の原因となり、じゃがいもに水分が付き腐食が進みやすくなってしまうのです。なるべく土の中と同じ環境を作って呼吸の活性化を抑えるとともに、二酸化炭素を新鮮な外気と入れ替えることが初期貯蔵では大切で、この工程をドライングと呼んでいます。

じゃがいもを「ベスト」に保つプロセスとは

--

ドライングの先も独自のプロセスが続くのですか?

佐々木

はい。ドライングと並行して行うのがキュアリング。これは収穫時に付いた傷などをじゃがいも自身の自然治癒力である程度修復させる工程です。ちょうど人の傷にかさぶたを作るような感じですね。このキュアリングが完了したのを確認した段階で、発芽を抑えるために貯蔵庫の温度を徐々に下げていきます。これがクールダウンの工程。そして、最終的に一定の温度と湿度で環境をキープし、出荷まで維持するホールディングの工程に移ります。

--

ホールディングの条件は、全部のじゃがいもで同じものなのですか?

佐々木

いいえ、むしろ千差万別なんです。1ヶ月で出荷するのか、5ヶ月貯蔵するのか、どこの農家のどの畑で収穫したじゃがいもか、品種は何か、糖度はどのくらいか…などなど様々な条件や生産計画を加味して、じゃがいものグループごとに貯蔵環境の設定を変えています。

--

じゃがいもは収穫した順番にドカドカ貯蔵庫に積んでいく…というわけではなく、計画的にグループ分けして貯蔵しているんですね。

佐々木

じゃがいもの選別は畑で育っている時点から行うんですよ。サンプルを採って糖度を検査したり、畑の良し悪しを見たりして、「ここのじゃがいもは長く貯蔵できそうだ」、「ここのは早めに工場に出したほうがいい」といった目星を付けます。そのあと貯蔵庫に入れるタイミングで、市場状況や生産計画との兼ね合いから具体的に「いつ、どこの工場に」出荷するかをグループ分け。さらに、クールダウンの前に再び糖度のチェックをしてから、グループごとに定めた状態でホールディングします。

--

ホールディングでは一定の温度、湿度を保つために、貯蔵庫を密閉したりするんですか?

佐々木

とんでもない。じゃがいもは貯蔵期間の間も、土の中にいたときと同じように呼吸をして生きているんです。そうじゃないと色上がりの良いポテトチップスにはなりません。貯蔵庫を密閉するどころか、常に外気を入れながら呼吸を助けてあげる必要があるんです。とはいえ、外気を入れることで中の温度や湿度が変化すれば、発芽や糖度上昇の原因になってしまう。だから、長期貯蔵は一筋縄ではいかないんです。じゃがいもの呼吸を妨げずに定温・定湿の空間をいかに維持するかが大きなキーポイントですし、私たちもそのノウハウをずっと研究してきたわけです。

貯蔵庫はじゃがいもにとって最高の「寝床」

--

外気も循環させつつ定温・定湿を保つ貯蔵庫の中は、どうなっているんですか?

佐々木

まず、構造上最も大事なのは断熱です。内部の環境をキープするには断熱性の高さが根幹になります。当然、冷暖房、加湿除湿、換気などの設備の充実が欠かせません。また、じゃがいもの保存もかつては単純にバラで積み上げるだけでしたが、現在ではグループごとにコンテナに入れています。じゃがいもの圧着やつぶれが防止でき、通気性も確保され、かつ「どの畑で取れてどこの工場にいつ出荷されるグループか」というトレーサビリティが明確になるなどの点で非常にメリットがあります。

--

そうしたコンテナが、ちょっとずつ環境の違うスペースに分かれて貯蔵されているのですね。

佐々木

はい。それぞれ出荷まできめ細かい管理下に置かれています。そして管理と言えば、ライトマネージメント、つまり光の管理も重要です。というのも、じゃがいもは光に当たっていると表面が光合成を始めて緑化し、そこにグリコアルカロイドという毒素が発生するので、貯蔵中は真っ暗な状態を維持しなくてはならないのです。日光だけでなく蛍光灯の光でも反応してしまうので、本当に真っ暗にするんですよ。

--

貯蔵庫は全国にどのくらいあるんですか?

佐々木

現在総数では20数ヶ所(貯蔵能力約17万トン)ありますが、建てられた時期の違いなどから、設備面で多少のレベルの差があります。ですので、貯蔵庫をその性能ごとにランク付けし、事前の選り分けで長期貯蔵に回されたじゃがいものグループを、ランクの高い貯蔵庫に入れるなど、じゃがいもの選別と貯蔵庫の選別をうまく組み合わせて、どのタイミングでもベストな原料を供給できるように備えています。

貯蔵技術が支える品質・価格・供給の安定

--

長期貯蔵に関して、今後の改善ポイントはありますか?

佐々木

まず、貯蔵前に行うじゃがいもの選別の精度をもっと上げていきたいと考えています。どのじゃがいもがどのくらい貯蔵できるかを事前に正確に判断することができれば、品質のバラツキを今よりもさらに小さくできます。そして究極的には、より長期貯蔵に適したポテトチップス用品種の開発が今後の課題になります。

--

海外ではそうした品種が既に開発されているんですか?

佐々木

当然、アメリカやヨーロッパでは生食用とは違う「ポテトチップス専用の」品種を栽培してきた歴史が長いので、糖度が低くて傷や疫病にも強く、収量も十分に見込めるような品種というのはいくつか存在します。ただ、それらを仮に日本に持ってきても、こちらの気候風土に必ずしもマッチするとは限りません。ですので、理想の品種を開発するには産学官の連携を取りながら様々なテストを繰り返していく必要がありますし、現にその取り組みはスタートしています。

--

現在の長期貯蔵のノウハウを手にするには、やはり長い年月を要したのでしょうか。

佐々木

長期貯蔵は、1975年にカルビーがポテトチップスを発売したときからの、避けては通れない課題です。収穫・貯蔵のサイクル上、実施と検証が1年に1回しかできない中で、私たちは毎年少しずつ技術を確立し、ノウハウとして蓄積してきました。アメリカでは国土が広いためじゃがいもの収穫時期も地域によって幅があり、長期といってもせいぜい3〜4ヶ月程度の貯蔵で原料のやりくりができますが、日本ではそうもいきません。最長で半年近くもの貯蔵を可能にするノウハウの蓄積という点では、世界的にも自信を持っています。

--

正直、消費者としては、こうした「影の努力」をあまり知らないまま何気なく製品を口にしていました。

佐々木

私たちには食品製造業者としての責任があります。外国産の原料を持ってきてリパックする、というような工程とは違い、自然の原料の栽培から調達、貯蔵、加工まで一貫して国内で行うには、品質・価格・供給の安定が欠かせません。長期貯蔵はその「安定」を支える中心的な技術なのです。限られた品種を、薬品を使用せずに発芽を抑え、糖度も上げずに、半年近くキープする技術。それがあって初めて、美味しいポテトチップスを1年中、皆様にお届けすることができるのです。

編集後記

原料貯蔵について普段はなかなか深く考える機会が少ないですが、国産原料だけで全てをまかなっていくとなると長期貯蔵がどうしても必要になるのですね。しかも、家庭で保存するときでさえ芽がすぐに出てしまうじゃがいもですから、それを何万トン単位で品質を高く維持したまま貯蔵するというのは、さぞかし大変な技術なのでしょう。一般の方にとっても実に興味深いレポートです。ご苦労様でした。

一覧に戻る

出張授業スナックスクールお申し込み おやつとの付き合い方講演会
学習サポート faq
PAGE TOP ↑