Special Dialogue「睡眠への関心が高まる時代に、食品メーカーと研究者が描く未来」カルビー株式会社 代表取締役社長兼CEO 江原信 × 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 機構長 柳沢正史

筑波大学大学院修了、医学博士。血管制御因子エンドセリン、睡眠・覚醒を制御するオレキシンを発見。2017年、株式会社S’UIMINを起業。紫綬褒章、朝日賞、慶應医学賞、文化功労者、ブレークスルー賞、クラリベイト引用栄誉賞など多数受賞。
2011年、カルビー株式会社入社。同年4月よりグループ会社であるジャパンフリトレー株式会社の社長を務め、「ギャレットポップコーン ショップス」の日本展開などに貢献。海外事業、新規事業などを推進し、2023年より現職。

現代では、働き世代の日本人の5人に1人が睡眠に関する問題を抱えると言われています。コロナ禍を経て健康意識が高まったこともあり、睡眠への関心は近年高まるばかりです。

カルビーでも、2020年に自社初となる機能性表示食品『にゅ〜みん』の販売を開始するなど、睡眠分野に参入。さらに2022年には、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)機構長で睡眠研究に関する世界的権威でもある柳沢正史先生が代表を務める株式会社S’UIMINに出資するなど、研究開発を進めています。

今回は、そんな「食×睡眠」という領域でタッグを組むカルビー社長の江原とS’UIMINの柳沢先生が対談。社会からの関心が高まる睡眠と食の関わりや睡眠が会社経営に及ぼす影響、今後のビジョンまで語り合いました。

柳沢 正史
筑波大学大学院修了、医学博士。血管制御因子エンドセリン、睡眠・覚醒を制御するオレキシンを発見。2017年、株式会社S’UIMINを起業。紫綬褒章、朝日賞、慶應医学賞、文化功労者、ブレークスルー賞、クラリベイト引用栄誉賞など多数受賞。
江原 信
2011年、カルビー株式会社入社。同年4月よりグループ会社であるジャパンフリトレー株式会社の社長を務め、「ギャレットポップコーン ショップス」の日本展開などに貢献。海外事業、新規事業などを推進し、2023年より現職。

世間から注目を集める「脳腸相関」、
食と睡眠の深い関係とは

カルビーは2022年3月、S’UIMINへの出資を実施しました。まずはそれからの1年半を振り返っていただけますか。

柳沢:睡眠への社会的な関心は高まり続けている実感があります。コロナ禍を経て自分の健康を見直す人が増えたのではないでしょうか。直近の2年くらいの間に、S’UIMINは事業の軸である睡眠脳波の計測サービスの仕組みが確立し、顧客ノウハウ等も安定化して、これからはさらに伸ばしていく段階に入っていきます。

江原:カルビーでは2020年の11月に、初めての機能性表示食品『にゅ〜みん』を数量限定で発売しました。この商品の開発に至った理由として、生活者の皆さんから睡眠に対する大変多くのニーズが寄せられたことがあります。「世間ではこれだけ多くの方が睡眠に悩んでいるのだな」と分かり、「食を通じて健康に寄与する」ことを目指すカルビーとして何かできないかと考え、開発陣が試行錯誤して『にゅ〜みん』を開発しました。おかげさまで、使っていただいたお客様からは「寝覚めが良くなった」などの感想をいただいています。しかし、まだまだ市場的には開拓の余地があると考えています。

柳沢:脳機能と腸内環境との相互作用を表す「脳腸相関」という言葉があり、近年注目を集めています。私たちも株式会社メタジェンとの共同研究を通して、腸内細菌叢が睡眠にも影響を与えることを報告しました。非常に難しい分野で、未だに詳細なメカニズムは分かっていませんが、研究は日進月歩ですから、今後さまざまなことが明らかになってくると思います。

江原:我々も「脳腸相関」には注目しており、具体的なメカニズムが解明されることを期待しています。

柳沢先生はS’UIMINの代表としてご活躍されながら、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)長として研究に励んでいらっしゃいます。どんな活動をされているのでしょうか?

柳沢:普段は大学で基礎研究を進めるなかで、主に博士課程の大学院生に向けて、将来研究者となるための教育も行っています。IIISは、睡眠の基礎研究に特化した研究所としては世界最大規模・世界トップレベルです。大学院生まで含めると220人近い人員が所属していて、15以上のラボがあります。

江原:それだけ大勢の方が所属しているということは、多くの方が睡眠の基礎研究に関心を持っているということですよね。

柳沢:幸いなことに、私がいる研究機構は大学院生にも人気があるようです。どんどん増えていって、現在は60人くらい所属しているでしょうか。彼らの多くが博士課程に進みます。

江原:先生は各種メディアでもご活躍されていますから、その姿を見ている若い大学院生の方々は、研究のモチベーションが上がりそうですね。

柳沢:機構長としての仕事のほかに、私自身も同僚の教授とともにラボを運営しています。ラボではチームワークが大事なので、所属する若い研究者や大学院生と積極的にディスカッションや飲み会もするようにしています。

社員の睡眠の質と量が、
企業の生産性に直結する

改めて、柳沢先生から睡眠の重要性についてお聞かせいただけますか。

柳沢:とにかく日本人は睡眠不足です。特に顕著なのは現役の働き世代ですが、子どもの頃から睡眠不足は始まっています。

江原:海外と比較するとどうなのでしょうか。

柳沢:世界的に見ても、日本人の平均睡眠時間は極端に短いです。実は、国民1人当たりのGDP(国民総生産)と国民の平均睡眠時間の数値には、非常に強い相関が認められます。裕福な国ほど国民がよく眠っている傾向があるのです。
最近の研究では、社員の睡眠時間が長い会社ほど生産性がよい、利益率が高いという結果も出ています。同時に、睡眠に問題を抱えている社員は、ほかの健康問題を抱える社員と比べ、圧倒的に損失リスクが大きいとも言われています。睡眠が悪いとまず健康状態が悪くなり、メンタルの不調や認知症、生活習慣病などのリスクも高まります。しかし、睡眠不足の一番の問題は、脳のパフォーマンス低下に直結することです。睡眠不足だと一定の時間にこなせる仕事の質と量が低下し、ミスも増えます。

江原:なるほど。私も少し心当たりがありますね。

柳沢:健康経営という言葉が近年注目されていますが、その一番重視すべき要素は睡眠なのではないかと思っています。これまでは企業のイメージやステークホルダーとの信頼関係などが目標とされていたように思います。もちろんそれも重要ですが、最も重要な目標は生産性のはずです。企業としてどれだけ利益を上げられるかが睡眠にかかっているのです。それを理解している経営者の方が、徐々に増えてきているように思います。

江原:社員の睡眠の質を確保するのは大切なことだと思います。もし社員の睡眠についてしっかりした調査をして、その結果、睡眠の質が悪いとわかったとき、会社側はどのように対処するべきなのでしょうか。

柳沢:睡眠の問題への解決策は、極端に言えば1人ひとり異なります。S’UIMINの活動にも通じるのですが、まずは「見える化」するのが第一歩です。主観的に何が問題なのかを把握し、客観的に調査して明らかにします。
日本人の場合、多くの働き世代に共通して睡眠不足という問題があり、そこについては睡眠時間を確保するしか対処法がありません。睡眠時間が短いにも関わらず、眠りの質を上げて対処しようというのは完全に誤りです。

江原:「深い眠りであれば、睡眠時間が短くてもいい」とはならないのですね。

柳沢:残念ながらなりません。自分にとって必要な睡眠時間を確保したうえで、それぞれ異なる自分の睡眠の問題に対処していく必要があります。

『にゅ〜みん』のような食品も含めて
睡眠のルーティーンが重要

そうした1人ひとり異なる睡眠の問題に対処していくために、カルビーの『にゅ〜みん』のような食品は、柳沢先生から見ていかがでしょうか。

柳沢:睡眠をサポートするアイテムとして、非常に有効だと思います。『にゅ〜みん』のような食品も含めて、「こうすれば自分はすぐに眠れる」というものを見つけることが大事なのです。英語では「ベッドタイムルーティーン」と呼びます。
実は私自身もベッドタイムルーティーンがあります。私の場合は職業柄、たくさんの論文を読まなければならないのですが、そのなかでも読むのがつらい論文、言葉を選ばずに言えばおもしろくない論文を読み始めると、数分で眠くなります(笑)。ベッドにPCを持ち込んで、眠る前に読んだりしていますね。

江原:そうでしたか!

柳沢:非常に効果的です。これからは『にゅ〜みん』を上あごに貼り付けながら論文を読んでもいいかもしれませんね。

江原社長は独自のベッドタイムルーティーンはありますか?

江原:なるべく就寝前に読書しようとしています。ただ、「読書したい!」と思っていてもすぐに眠ってしまうので、柳沢先生のルーティーンと近いかもしれません。

柳沢:それも立派な入眠ルーティーンですよ。

CalbeeとS’UIMINの協力で
日本人の睡眠問題解消に貢献へ

柳沢先生たちの研究によって、睡眠のメカニズムもどんどん解明され、さらに関心が高まっていくことが予想されます。そして、カルビーはこれからも睡眠分野の商品開発を進めていきます。それぞれのお立場から、今後の展望についてお聞かせください。

江原:カルビーは「食を通じて健康に寄与する」ことを理念として掲げています。ご縁があって睡眠分野に参入しましたので、今後も商品をブラッシュアップしていき、S’UIMINさんと一緒に睡眠の研究や商品開発を進めていきたいと思います。

柳沢:おっしゃるとおり、今後も両社で協力できればと思っています。S’UIMINとしてはカルビーさんをはじめ企業と協力した研究支援も進めていきますし、睡眠に関する問題の解決にも取り組みます。よく日本人の5人に1人は睡眠の問題を抱えていると言われますが、それは恐らく、自身の睡眠の問題を自覚できている人の割合です。問題を自覚できていない人はもっと多いと思われます。そうした個々人の睡眠の問題を「見える化」することから始まって、個人にカスタマイズされたソリューションにつなげられるような事業を展開できればと思います。

柳沢先生の研究者としての今後の展望はいかがでしょうか。

柳沢:基礎研究としては、私は「眠気」の謎に挑んでいます。長時間起きていると襲われる眠気の脳内でのメカニズムは、実は現段階で何もわかっていません。そうした脳内での眠気(睡眠要求)の実体を最終的には解明したいと思っています。
私はいわゆる「見る将」で、将棋の藤井聡太八冠の大ファンです。あるインタビューで「将棋を登山に喩えたら、現在何合目か」と問われた藤井さんは「まだ森林限界を越えられていません」と答えました。つまり、自分はまだ将棋という登山路の尾根道すら見えていない、ましてピークはまだまだ見えないということです。

江原:藤井さんは既に相当の境地にいるようにも見えますよね。

柳沢:若いのに本当にすごいことを言うなと驚きましたが、私はこの藤井さんの発言を引用させてもらっています。というのも、眠気の実体を追究するという意味では、まだ森林限界を越えられていないように思えるからです。それだけやりがいのある問題に直面できているのは、研究者としては幸せですね。

江原:チャレンジできるということですものね。

柳沢:そうです。私自身、それを本当に面白いと思えていますし。楽しく研究しています。

江原:ぜひ、その研究が進むことを期待しています。

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