2023/08/07

【草取り・土寄せ体験レポート】粟島「一人娘」との出会いで見つけた、人と畑の多様性

2023年7月、粟島で「一人娘」の草取り・土寄せ作業支援ツアーを開催しました。
一般からの参加は、6月の種まきツアー昨年の収穫ツアーに参加いただいた方、新たにご応募いただいた方など15名。2泊3日で行われたツアーの様子を、3回目のツアー参加となる新潟市在住のライター・ヤマシタナツミさんがレポートします。

ライター|ヤマシタナツミ
新潟市生まれ。新潟大学農学部卒。「人と地域の未来をつむぐ」をテーマにライティング、イラストレーション、小説創作をしています。

Webサイト https://www.yamashitanatsumi.com

地域も年齢も経験もさまざま。
個性豊かな仲間と三度目の粟島へ。

7月7日、三度目の粟島ツアーの日がきました!岩船港に向かうと、6月のツアー昨年11月のツアーでご一緒したみなさんに加え、初めて参加される方の姿も。声を掛けると、各地から集まったカルビーの社員さんでした。

社内報やWebで粟島「一人娘」プロジェクトの取り組みを知って興味が膨らみ、「参加したい!」と手を挙げたのだとか。カルビーさんの社内でも「一人娘」の輪が広がっているようで、うれしくなりました。

この日は風が強く、新潟や粟島に向かって中国から黄砂が飛んでくるほど。おだやかだった6月のツアーと比べると船の揺れが大きく、酔ってしまった人もいて、海に囲まれた粟島ならではの旅のはじまりとなりました。

オリエンテーション会場の公民館に着くと、6月には蕾の残っていた紫陽花が満開に。季節の移ろいを感じることができました。

会場には「miino一人娘」と絵本、Tシャツ、粟島の観光パンフレットが用意されていました。パンフレットを開いてみると「粟島グルメ」のページに、以前は載っていなかった「miino一人娘」の写真が!島を訪れる多くの方に「一人娘」のことを知ってもらえそうで楽しみです。

オリエンテーションではまず、2日目に予定していた草取り・土寄せ作業を1日目に行うアナウンスがありました。2日目が雨予報になってしまったため、急遽、この日の午後から作業できるよう調整いただいたそうです。

粟島観光協会の松浦さんからいただいた挨拶では「今年は昨年の2倍にあたる600kgを収穫できれば」というお話も。「一人娘」が昨年よりもたくさん実をつけてくれるように、草取りや土寄せをがんばろう!と思いを新たにしました。

その後は粟島と今回のツアー内容を紹介していただき、最後にスタッフも含めて全員で自己紹介をしました。北は北海道、南は佐賀県と全国各地から集まった参加者は年代もさまざま。一人ひとりの個性や、ツアーへの思いが伝わってきました。

オリエンテーションの後は畑での作業に備えて、動きやすい服装に着替えました。6月はまだ小さな種だった「一人娘」の成長が楽しみです。

草取り・土寄せで見えてきた、畑の多様性。

作業場所に到着してすぐに、畑の近くまで行ってみると、そこには元気よく育った「一人娘」の姿がありました!日当たりが良いせいか雑草も元気。草取りのやりがいがありそうです。

「一人娘」と再会できたうれしさでほくほくしながら、集合写真を撮影しました。掛け声は「はい、miino!」です。このメンバーで草取り・土寄せ作業に挑みます!

作業には、急な日程変更にも関わらず、島のみなさんも駆けつけてくださいました。経験の少ない私たちにとって、農作業をリードしてくださる島のみなさんはとても頼りになる存在です。

みなさんの写真を撮影しながら畑を移動してお話を伺ううちに、おもしろいことがわかってきました。

【開墾して1年目の畑】
土質は粗く、ところどころ塊があります。ヨモギやスギナのようなしっかりと根づく草だけ生えているようでした。

【開墾して2年目の畑】
1年目と比較するとサラサラとした土質で、キメが細かい印象です。ヨモギやスギナなどに加えて、イネに似た細い葉の草も生えていました。

また、同じ畑の中でも「一人娘」が育ちやすい場所と、育ちにくい場所があることもわかりました。試しに私のスマートフォンと並べて葉の大きさを確認したところ…左の葉は右の葉の2〜3倍の大きさ。同じ時期に、同じ畑に種をまいたのに、これだけ差が出るとは思いませんでした。同じ畑でも場所によって、何かが違うようです。

草取りに慣れてきたかな、というタイミングでみんなで休憩。この日の気温は30℃近く、冷たい飲み物がとても心地よく感じられました〜。

休憩中には、農業指導担当の新潟県村上地域振興局の渡辺さんに「一人娘」の栽培方法について質問する参加者も。私も仲間に入れてもらうと、次のことがわかりました。


【根粒のこと】
大豆の根につく小さな粒は「根粒」と言い、空気中の窒素を養分として大豆にとりこむ機能があるので、大豆には肥料をあげる必要がない。
「根粒」をたくさんつけるには、「一人娘」の株の周りにしっかりと土を盛る必要があるので、土寄せはとても大切。

【株と株の間隔】
狭いと、養分を奪い合うので、植え替えるといい。間隔の目安は20cm。

【株の大きさ】
育ちすぎると、豆が実りにくくなってしまうので、株が縦に伸びすぎないように、3枚葉のついた枝が5本出たら、成長点を取るといい。そうすると豆がよくつく。


ちゃんと収穫するためには、ちょうどよく育てる工夫が必要なのですね。渡辺さんに教えていただいて、また少し「一人娘」について知ることができました。

土寄せの大切さについてもわかったところで、いざ実践!

島のみなさんの手ほどきを受けながら鍬(くわ)をふるって、株の近くに土を寄せていきます。耕運機は、草取りと土寄せが同時にできる優れもの。人の手と機械、両方を使って、昨年の1.8倍ある畑の作業を進めていきました。

そしてようやく草取りと土寄せ作業が完了!
日差しの下で葉を輝かせている「一人娘」も、畑がととのって喜んでいるように見えました。

暑い中での作業は過酷な面もありましたが、参加者同士や、島のみなさんとの交流が生まれるなど充実した時間に。達成感いっぱいで1日目を締めくくりました。

粟島の郷土料理・油味噌づくりは、味噌と味見がポイント。

2日目の午前中は「島のばぁば」と慕われているお母さんたちから「油味噌」という郷土料理を教えてもらいます。材料は油、玉ねぎ、味噌、砂糖(上白糖)の4つ。味噌は昨年のツアーでつくったものと同じ、「一人娘」を使った味噌です。

作り方はシンプルで、まず、油をしいたフライパンにカットした玉ねぎを入れ、透明になるまで炒めたら味噌を入れます。味噌と玉ねぎが一体になったら砂糖を投入。その後は玉ねぎの形がなくなるまでしっかりと煮詰めていきます。

「玉ねぎは炒めるとなくなるから、あんまり薄くなくていいよ」と教えてもらったので、参加者は「これくらい?」とばぁばに確認しながら、代わる代わる包丁を持って玉ねぎをカットしていきました。

ばぁばに「油味噌」づくりのコツを聞くと「自家製の味噌を使うこと」と返ってきました。不思議なことに市販の味噌でつくっても、あまりうまくできないのだそうです。

材料は重さで測るのではなく、味見をしながら量を決めます。「私の母もそうやってたしね。味見して、まだしょっぺーかなと思ったら砂糖を入れるの」とばぁば。味を見て、砂糖を足して、煮詰めて、という作業を繰り返しながら、油味噌をつくっていきました。

できたての油味噌をキュウリにつけて味見したのですが、相性抜群!他にどんな食べ方があるか聞いてみると、夏はナスや大葉を、冬は玉ねぎを和えたり、ご飯と合わせてチャーハンにすることもあるそうです。

最後は、油味噌をお土産として持ち帰れるよう、瓶詰めに。しっかりと煮詰められた油味噌はつやがあって、とてもおいしそう。ツアーの良いお土産ができました。

豊かな自然に育まれた食文化にふれ、粟島の未来に思いをはせる。

油味噌づくりの間に、食事会兼交流会「ばぁばキッチン」のための食材が届いていました。一つは保冷ボックスいっぱいのサバ。もう一つはカスベ(エイ)。島の漁港で水揚げされたものを、今回料理するために確保してくださったそうです。

油味噌づくりの後、自由時間を楽しんでから公民館に戻ってくると、料理ができあがっていました。ツアー常連の参加者さんは、料理もお手伝い。島のばぁばたちとも、すっかり打ちとけた様子でした。

できあがった料理を盛りつける前に、メニューを紹介いただきました。今回、酢の物は「当たりつき」で運がよければサザエが入っているとのこと。盛りつけも楽しみになりました。

料理はビュッフェ形式で各自盛りつけていきます。左上の小皿が、カスベの煮つけ。ワンプレートには、サバの竜田揚げ、ポテトサラダ、タケノコの炒め物、ギンバソウとマダラの卵の煮物、キュウリの酢の物に、紫玉ねぎの甘酢漬け。そしてタケノコご飯と「一人娘」の味噌を使った味噌汁。飲み物はビール、チューハイ、ソフトドリンクに加え日本酒もありました。

料理と飲み物がそろったところで、かんぱ〜い!
ツアーをふりかえりながら楽しく語り合いました。

「ばぁばキッチン」の終盤、恒例になりつつある、感想シェアの時間に。「粟島の食の豊かさに感激した」「島のお母さんと一緒に料理できてうれしかった」「農作業で土に触れられてよかった」など、一人ひとりの心に響いたものを知ることができました。ここではみなさんからの感想をテーマごとにご紹介します。


【ツアーについて】
「初めての粟島で、今日は雨でしたがとても楽しかったです。11月のツアーにも参加したいと思っています」
「天気に応じて予定を調整いただいたおかげで畑作業ができて、ありがたかったです」
「参加して考え方も交友関係も広がったかなと思っています。粟島の方々と料理を一緒に作れたのも、とても楽しかったです」
「自分の子どもと同じ世代の方も参加されていて、いろんな世代の方とご一緒できてよかったです」
「参加している20代の若い人が、自分の意見を持っていることを知れて、うれしかったです。粟島に住んでいる若い人とも関わってみたいと思いました」


【粟島について】
「粟島に初めて来て、食と、畑に触れられて、とても楽しかったです」
「村上市の山北では粟島と同じようにカスベの煮つけや冷汁を食べますが、同じ料理でも違う素材が入っていたり、近い土地でも似ているところ、違うところがあるんだなと勉強になりました。子どもたちにも伝えたいと思います」
「時間の流れ方がゆっくりしていて、とても居心地がいいと思いました。お祭りなど、もっと粟島の文化に触れてみたいです。一方で文化を絶やさずに、続けていくには、粟島の深掘りをして産業をつくることが必要なんじゃないかと思いました。」
「離島の暮らしを支えていくっていうのは、離島の人たちだけの問題ではなくて、もっともっと広い地域の枠組みとして考えていかなきゃいけないことなんじゃないかなと感じているところです」

【「一人娘」栽培プロジェクトについて】
「一度無くしたものはなかなか取り戻せないと思うので、『一人娘』を絶やしちゃいけないなと感じました。みんなで盛り上げていきたいです」
「今回の体験を通して食の恵みに気づかされました。今の時代は機械化されているものもありますが、粟島の『一人娘』は人の手をかけて育てられているとわかったので、miinoを見ると感謝の気持ちがわいてきます。しっかり味わっていきたいと思いました」
「草取りのときに、『一人娘』の根についたつぶつぶ(根粒)のことを教えてもらったり、開墾して1年目の畑と2年目の畑では雑草の種類が違うと気がついたり、農業は奥が深いと思いました」
「農作業は元気をもらえるというか、自分も土に触って栄養を吸収しているみたいな感じでとても楽しかったです。以前から農業に興味を持っていましたが、このツアーに参加して、やっぱり自分に向いているのかな、将来的に農業をやりたいなと思いました」

【カルビー、miinoについて】
「カルビーさんのおかげで、いろんなところでいろんな人に出会えることが楽しいです。島のお母さんたちと一緒にごはんを作らせてもらえたこともとてもよかったと思います。ツアーに参加するたびに粟島の魅力と人の魅力に気づかされます」
「粟島は何度か来ていますが、カルビーさんのツアーに参加して、これまでと違う色々な体験ができました。これから起業を考えていたり、就職を控えているので、人とつながることや企業として選んでもらうために大切なことなどを、知ることができてよかったです」
「ツアーの話を学校で生徒にしたら、カルビーに興味を持って、カルビーさんに手紙を書いた生徒がいました。これからもさまざまなつながりが生まれていきそうです」
「『一人娘』の他にも、粟島にある資源を使って調味料をつくったり、カルビーさんで展開していただけたら素敵だなと思いました」
「カルビーさんみたいに、農業に付加価値をつけてる活動は、日本のいろんな地域にとって大切なことなんじゃないかなと思いました」

そして「一人娘」プロジェクトの発起人である、カルビーの藤東さんから、締めくくりの言葉が。「みなさんのおかげで成り立っている企画だと思いますし、これを続けることで粟島にいいことが起こるんじゃないかと信じています」。

人口減や生産者不足など、全国各地で起きている課題は粟島にも当てはまります。私も引き続き「地域を越えてつながり解決していく」という思いで関わっていきたいです。

最終日、7月9日の朝、帰りの船に乗るために港に行くと、島の皆さんも来てくださっていました。昨年の収穫、6月の種まき、今回の草取りと、回を重ねるごとに名残惜しさが増すようです。お話して、手を振って、感謝の思いを伝えました。

今回の粟島ツアーでは、往路の船が揺れたり、雨模様だったり、思い通りにならない自然の力を実感しました。そんな中でも無事に草取りと土寄せを終えることができたのは、粟島のみなさん、ツアーを企画したみなさん、そして参加者と、背景や立場、興味関心もさまざまな多様な人たちの力が合わさったからだと思います。これからも「一人娘」栽培を続けていくため、みんなで力を合わせていきたいです。

ツアーを終えた2日後、参加者の方から「自宅のプランターに植えた『一人娘』に花が咲きました」と写真をいただきました。淡い紫色のかわいらしい花です。粟島の畑の「一人娘」も花を咲かせて、実をつけてくれますように。

さて、次回11月の農業支援ツアーではいよいよ収穫を行います。みんなで見守ってきた2023年の「一人娘」物語は、どんなゴールを迎えるでしょうか。

引き続きレポートしていきますので、一緒に見届けてもらえたらうれしいです!