じゃがいも栽培には欠かせない種芋生産の裏側 ~Part1~
こんにちは!
じゃがいもDiaryでも植え付け作業をご紹介する際に何度か登場している「種芋」。実はこの種芋、じゃがいもの収穫量や品質を左右すると言っても過言ではないほど、じゃがいも栽培にはとても重要な存在なんです。
そこで今回は、じゃがいも栽培の基盤ともいえる種芋を生産されている「黄金崎農場」さんを訪問し、取材を行いました!
“じゃがいもを栽培するよりも、種芋を栽培する方が大変”と言われるその理由についてお伝えします。
↓植え付け前の種芋
▶5/30公開 北海道芽室町の畑から ~高品質なじゃがいもは土づくりから~より
そもそも種芋ってなに?
じゃがいもを栽培する際、まず初めに土に植えるのが”種芋”になります。
じゃがいもは種子ではなくイモを植えて増殖させるため、1年で増やせる量には限界があります。そのため、【原々種→原種→採種】の3段階の増殖を経て、一般栽培用の種芋が生産者に供給される仕組みとなっています。
この【原種→採種】の工程を担っているのが種芋生産者になります。
種芋は、栽培するための条件として災害発生の恐れがない場所で栽培することや、異なる品種が混同しないように距離を開けること、病害虫を持っている可能性のある作物からは離すことなど、いくつかの条件があります。
さらに、種芋自体がウイルスや病気にかかっていると一般のじゃがいも栽培に影響が出てしまうことから、植物防疫官(農林水産省の職員)によって3度にわたる厳密な検査を合格した種芋だけが一般栽培用の種芋として認められています。
種芋栽培について
栽培方法は、植え付け~防除~収穫~貯蔵と基本的な流れは一般のじゃがいもと変わらないのですが、種芋はその中でも細かな作業がいくつか存在します。
今回はその中でも特に大変だと言われている【⑥抜き取り作業】にお邪魔させていただきました。
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7月初旬の30℃を超える暑い日、青森県弘前市にて種芋生産をされていらっしゃる「黄金崎農場」さんに伺いました。
↓取材にご対応いただいた、「黄金崎農場」東(ひがし)さん
ー今、皆さんがやってらっしゃる作業は何ですか?
これは「抜き取り」という作業で、ウイルスがついている株をひとつずつ抜き取っています。
-手作業でですか!?
はい、細い畝(うね)の間を歩いて葉の状態を一つひとつ目視でチェックしています。今日は約20名体制でやっています。明日には検査があるので今日中にこの作業を終わらせなければいけないんです。
-この作業はなぜ必要なのでしょうか?
種芋の栽培で一番重要なのは、じゃがいも生産者に品質の良い種芋をひとつでも多く届けることです。
もしウイルス病に感染した株をそのままにしておくとアブラムシなどの害虫を介して他の株へ感染が広がり、葉が枯れて生育不良、結果的に収量が大幅に低下してしまいます。さらにこれが日本各地に広がってしまうと大問題になるため、早い段階でウイルスにかかっている芋を取り除くのはとても大切なんです。ウイルス病の症状は主に葉に出るので、まだ葉が生い茂っていないタイミングのほうが見分けやすいというのもありますね。
-なるほど、早めの対応が大切なんですね。検査とはどういったものになるのでしょうか?
検査のタイミングは収穫までに3回あるんですが、ウイルスにかかっている株は完全抜き取りが原則です。その検査基準は非常に厳しく、植物防疫官がひとつの畑から1,000株~2,000株をチェックし、例えば1,000株中1株でもウイルスが見つかると、保有している全ての畑の種芋が不合格になってしまいます。なので、ひとつ残らずウイルス病にかかっている株を取り除けるよう、葉をよく観察して見分ける技術が求められます。
-ウイルス病の感染株を見分けるのは難しいのでしょうか?
見分けるのはそう簡単ではありませんね。ウイルス病には様々な種類があり、それぞれ特有の症状が現れるので、目が慣れないと難しいと思います。
-ウイルス病にかかっている芋と健康な芋の葉の違いを実際に見せていただくことはできますか?
これがウイルス病にかかっている葉なんですが、葉の周りがうねうねしてるのが分かりますか?
-え!こんな微妙な違いなんですか!?素人の目には言われないと分からないです…
そうですよね。こっちもさっき抜き取った株なんですが、健康な葉に比べるとなんだか葉の表面がモヤモヤっとしていませんか?畑の中に紛れているとこんな感じです。
-おお…葉っぱの中に紛れていると余計に見分けるのが難しいですね。陽の当たり方によっても見え方が変わってきそう…
ほんとおっしゃる通りで、時間帯やその日の天気によっても見え方が変わってきます。経験を積まないと、ウイルス感染なのか、単なる薬害や暑さの影響なのかなどの判断も難しいです。
-それも暑い中での作業となると頭が下がります。もっと皆さんの負担が減る方法があればいいんですが…何かいい策はないのでしょうか?
そうなんですよね。この作業は非常に多くの人手と労力を必要とするため、自動化が望まれています。最近だと画像処理を用いた自動検出の研究が進められていますが、まだ実用段階には至っていないのが現状です。
-そうなんですね。厳しい検査や大変な作業がある中でも種芋を栽培され続ける理由はどういったところにあるのでしょうか?
やっぱり私たちが育てた種芋を使ってくれた生産者の方に「今年の種芋はよかったよ!」と言われるのが何よりものやりがいですね。待ってくれている人がいると思うと「今年もがんばって作らなきゃな」と思います。何事も人と人の繋がりですからね。
-それはどんな仕事にも通ずる大切なことですよね。貴重なお話しありがとうございました。
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後半では、黄金崎農場さんに関することや種芋栽培における現状の課題についてご紹介します!
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