共同研究講座の研究成果

研究論文

血液透析患者においてグラノーラの摂取による血圧の低下や腸内環境の改善を確認
―グラノーラによる食の選択肢拡大―

2025.4.22

[背景]

至適血圧を超えて血圧が高くなるほど心血管疾患や慢性腎臓病の進展および死亡リスクが高くなることが知られています。高血圧対策として減塩は必須であり、近年腸内環境が高血圧の発症や進展に関与していることも報告されています。また血液透析患者では、高血圧を合併していることが多く1日6g以下の塩分制限に加え、電解質異常の発症抑制のために果物や野菜の摂取も制限されるため食物繊維が不足しやすく慢性的な便秘症状を抱えている患者が多くいます。シリアルは塩分含有量が少なく、βグルカンなどの水溶性食物繊維やポリフェノールが豊富に含まれており、減塩、そして腸内環境の改善や抗炎症作用に寄与することが期待されます。これまでに11名の血液透析患者を対象とした試験では、朝食をグラノーラに置き換えることで、血圧および腸内細菌由来尿毒素であるインドキシル硫酸(IS)の低下、便性状の改善を報告してきました(H Nagasawa, et al; J Pharmacol Sci. 2021) 。

目的

本研究では、対象となる血液透析患者の人数と腸内環境の解析項目を拡大し、朝食にグラノーラを摂取した際の腸内環境を含めた健康への寄与を検証しました。

方法

同意がとれた24名の血液透析患者を対象とし、朝食にグラノーラを8週間摂取してもらい、血圧、推定塩分摂取量、体組成、血液生化学検査、尿毒素、便性状、腸内細菌への影響を検証しました。

【結果】

解析対象者24名全てで血液の検査値等に異常は見られず、透析患者におけるグラノーラ摂取の安全性があらためて確認されました。グラノーラの摂取により推定塩分摂取量、収縮期血圧、拡張期血圧の低下が認められ、これは塩分の摂取制限による降圧効果がもたらされた可能性が考えられます(図1)。


図

図1. グラノーラ摂取期間中の推定塩分摂取量と血圧の変化
(A)推定塩分摂取量. (B)血圧. 平均値±標準偏差, N=24. *p < 0.05, **p < 0.01. 論文より改変.

また血中のインドキシル硫酸(IS)が低下しており、腸内細菌叢の結果ではインドール産生菌が減少していることから、グラノーラに含まれる食物繊維の補給が腸内環境の改善を介して腸内細菌由来の尿毒素ISの産生量低下に繋がった可能性が考えられます(図2)。


図

図2. グラノーラ摂取期間中のインドキシル硫酸(IS)とインドール産生菌の変化
(A)血中インドキシル硫酸濃度, 平均値±標準偏差,. (B)インドール産生菌相対存在量, 平均値. N=24. *p < 0.05. 論文より改変, 作図.

他の腸内細菌叢解析ではα多様性(Simpson指数、Observed species)が向上し、Blautia菌と Neglecta菌の増加が認められました。Blautia菌は高血圧患者では低下していることが報告されており、減塩による降圧効果に加えて、Blautia菌などの腸内細菌による降圧効果がある可能性も示唆されました(図3)。


図

図3. グラノーラ摂取期間中の腸内細菌叢解析
(A)Simpson’s指数.(B)Observed species, 平均値±標準偏差. (C)Blautia菌相対存在量. (D)Neglecta菌相対存在量.平均値. N=24. *p < 0.05, **p < 0.01. 論文より改変, 作図.

まとめ

血液透析患者においてグラノーラの摂取は、塩分制限や食物繊維の補給のみならず、インドール産生菌の減少やBlautia菌およびNeglecta菌を増加させるなどの腸内環境の改善をもたらす有用な手段であり、血液透析を受けている患者における高血圧やディスバイオシスによる血中IS値の上昇などの心血管疾患の危険因子の低減に寄与する可能性が期待されます。

研究論文のトップへ戻る

ページ上部へ

ページ上部