研究成果
(学会発表・研究論文)
学会発表
腸内細菌Alistipes属が睡眠の質に関係する
~「すこやか健康調査」を用いた関係性の探索~
2024. 5. 26
[内容]
健康な日本人男女を対象に実施された「すこやか健康調査」のデータベースから、約600名の腸内細菌や睡眠時脳波の測定結果を用いて、腸内細菌と睡眠の質の関係性を調べたところ、Alistipes属と最も深い睡眠であるノンレム睡眠段階3との間に因果関係が推定され、Alistipes属の増加が睡眠の質を良くする可能性が示唆され、睡眠の質を良くするための知見を示しました。「腸内細菌Alistipes属が睡眠の質に関係する~「すこやか健康調査」を用いた関係性の探索~」
第78回日本栄養・食糧学会大会において公表され、トピックス賞を受賞しました。
目的
睡眠は身体と脳を休息させて回復するために必要なプロセスであり、睡眠不足が続くと心血管疾患やうつ病など様々な疾患のリスクが上昇することが報告されています。また、睡眠時間を確保するだけではなく、睡眠の質も重要であることが知られています。睡眠は様々な環境からの影響を受けますが、近年では腸内細菌も睡眠に影響を与えることが知られています。例えば、マウスを用いた先行研究において、腸内細菌がまったく無い状態にしたマウスでは睡眠・覚醒リズムのメリハリが低下することや、ヒトにおいてもプレバイオティクスの摂取がアンケートによる睡眠スコアを改善することが報告されています。
このように睡眠と腸内細菌の関係を調べたような報告はいくつかあるが、その多くがアンケートといった主観的指標であったり、腕時計型の睡眠トラッキングで評価されたものであったりして、脳波測定によって得られる睡眠の質から議論された報告はほとんどありません。そこで、我々は健康な日本人男女を対象に実施された「すこやか健康調査」のデータベースから、腸内細菌や睡眠時脳波の測定結果を用いて、腸内細菌と睡眠の質の関係性を調べることとしました。
方法
「すこやか健康調査」から性別、年齢、BMIなどの基本特性・睡眠時脳波・腸内細菌叢・食事調査のデータを用いました。欠損値のある人などを除いた601名の被験者データから睡眠状態を階層的クラスタリングで分類しました。その後、分類された各グループで腸内細菌の相対存在量を調べ、グループ間で異なる腸内細菌を見出しました。そして、因果探索を実施し、腸内細菌と睡眠の因果関係を推定しました。
結果
睡眠時脳波の項目(レム睡眠の睡眠時間やノンレム睡眠の睡眠時間など)をもとに被験者を階層的クラスタリングでグループ分けすると、熟睡できているグループや、寝つきが悪くて中途覚醒が多いグループなど、5つのグループに分けることができました(図1)。
この時、腸内細菌を調べると、グループ間でいくつかの細菌が異なっており、種移民の状態によって腸内細菌が異なっていることが見出されました。例えば、Alistipes属という腸内細菌は熟睡できているグループ5に多く存在していて、睡眠時間が短いグループ4では少ないということを見出しました。
さらに因果探索により、腸内細菌と睡眠の因果関係を調べると、Alistipes属が増加すると最も深い睡眠段階であるノンレム睡眠段階3の睡眠時間が増加するという因果関係が推測されました。すなわち、Alistipes属という腸内細菌を増やせば、深い睡眠を取ること(熟睡すること)ができ、睡眠の質が良くなるかもしれないということがわかりました(図3)。
まとめ
「すこやか健康調査」のデータをもとに解析した結果、寝つきの良さ、中途覚醒の多さ、熟睡している時間の長さといった睡眠の質によって腸内細菌が異なっていることがわかりました。そして、腸内細菌と睡眠の質の因果関係を推定した結果、Alistipes属という腸内細菌を増やすことで、最も深い睡眠の睡眠時間も長くなるという因果関係が推定されました。すなわち、Alistipes属の増加が睡眠の質を良くする可能性が示唆され、睡眠の質を良くするための知見を示しました。